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運行管理者の業務内容を詳しく解説!義務や責任よくある質問まとめ

運行管理者の業務内容を詳しく解説!義務や責任よくある質問まとめ

「運行管理者は責任が重そう」

会社で運行管理者に選任されそう、またはすでに選任された方の中には、その責任の重さにプレッシャーを感じている方も多いのではないでしょうか。

 

運行管理者は会社の運送業務における安全を確保するための、重要な役割を担う存在です。

法令遵守や記録の管理、ドライバーの健康状態の把握など、日々の業務を的確に行うことで、事故やトラブルのリスクを大幅に低減できます。

 

そこで、本記事では運行管理者の業務の全体像と、特におさえておきたいポイントを詳しく解説します。

 

運行管理者の業務に不安をかかえている方も、本記事を読めば業務の全体像が把握できるでしょう。

ぜひ参考にしてください。

 

1. 運行管理者とは?

 

運行管理者は、自動車運送事業者(貨物やバス・タクシーなど)が安全を確保するために選任が義務づけられた責任者です。

ここからは、運行管理者の役割と義務、運行管理者の選任が必要な対象事業者について解説します。

 

1-1. 運行管理者の役割

 

運行管理者の役割は、道路運送法および貨物自動車運送事業法に基づき、事業用自動車の安全運行を確保することです。

運行管理者が担う主な役割は、以下のとおりです。

 

  • 自動車輸送の安全運行を確保し、交通事故を未然に防止する
  • 事業者と運転者の間に立ち、運行に関する調整を行う
  • 運行管理体制の継続的な改善を通じて安全性を高める

 

法令知識と実務経験を活かし、日々の業務を通じて安全運行を実現します。

 

1-2. 運行管理者の業務

 

運行管理者の業務は「安全管理」「労務管理」「記録管理」「教育指導」の4つに分類されます。

これらの業務は、それぞれ独立しているわけではなく相互に影響し合うため、運行管理者はすべてを統合的に運用する視点が必要です。

業務分類 具体的な業務例
安全管理 点呼による運転者の健康状態の把握
労務管理 運転者の勤務時間、休憩時間等の適正な管理
記録管理 運行日誌の記録、保管
教育指導 運転者の指導監督

 

一つひとつの業務を適正に遂行し、総合的に管理することで継続的な安全運行を維持します。

 

1-3. 運行管理者の選任 が必要な対象事業者

 

運行管理者の選任が義務付けられている事業者は、貨物自動車運送事業者(トラック関連)と旅客自動車運送事業者(バス・タクシーなど)です。

 

事業の種類と車両保有台数に応じて選任すべき人数が変動します。

運行管理者の配置基準は、以下のとおりです。

貨物自動車運送事業(トラック)
車両数 人数
~29両 1名
以降30両ごと 1名追加
例:30~59両:2名、60~89両:3名

 

旅客自動車運送事業(タクシー・バス)
種類 車両数 人数
貸切 ~29両 1名
以降30両ごと 1名追加
乗合・常用 ~39両 1名
以降40両ごと 1名追加

 

2. 運行管理者の具体的な業務内容

 

運行管理者の業務は、日々の安全を守る「日常業務」と、長期的な安全を実現する「定期・臨時業務」に分けられます。

運転者の健康状態や勤務時間の管理だけでなく、安全運行を支える体制づくりや継続的な改善も重要な役割です。

 

2-1. 毎日の安全を守るための業務

 

運行管理者の一般的な業務の流れは以下のとおりです。

 

2-1-1. 出庫前点呼

 

出庫前点呼では、運転者の乗務前に対面で点呼を実施し、健康状態や車両点検の実施状況を確認します。

 

点呼を通じて運転者の体調不良や異常を早期に発見し、事故を未然に防ぎます。

また運行ルートや天候などの注意事項を共有することで、安全意識の統一が可能です。

 

運行管理者が出庫前点呼で行う主な業務は、以下のとおりです。

 

  • 運転者の健康状態・疲労・飲酒の有無を確認
  • 車両の日常点検の実施状況を確認
  • 運転者の報告に基づく、携行品、積載、固縛の状況確認
  • 運転者への運行経路、所要時間、注意事項、気象情報の指示・共有
  • 運転者が記録した事項の確認

 

出庫前点呼では、運転者一人ひとりの体調変化を見逃さず、必要に応じて乗務を調整する判断力が求められます。

 

2-1-2. 勤務時間・休憩管理

 

運行管理者は運転者の過労防止のため、法令に基づいた勤務の計画表である「乗務割」を作成しなければいけません。

 

具体的には「法令で定める基準に従って事業者が定めた勤務時間および乗務時間に係る基準」や「勤務時間および乗務時間に係る基準」に沿って乗務割を作成します。

また、乗務割に基づき計画的な勤務を徹底させることで、過労運転の防止と法令遵守を実現します。

 

2-1-3. 健康状態の確認

 

運転者の健康状態を継続的に把握・管理することも、運行管理者の重要な役割です。

体調不良や持病がある場合、運転中の判断ミスを招きやすくなります。

 

  • 運転者の健康診断の実施と結果を確認する
  • 診断結果に基づき、要注意者に対して自主的な健康管理を求める
  • 必要な場合は再検査や精密診断の受診を促す

 

上記のフローに沿って、運転者の健康管理が必要です。

 

2-1-4. 帰庫点呼

 

帰庫点呼は、乗務を終了した運転者に対し、安全確認と次回運行を改善するための指導などを行う業務を指します。

運行管理者が帰庫点呼で行うべき主な事項は、以下のとおりです。

 

  • 運転者から疲労状況、車両の状態、事故や異常の有無を報告させる
  • 運転者から運行経路、交通、気象状況に関する報告を受ける
  • 運転者に翌日の運行予定や注意点を指示、共有する

 

帰庫点呼で得た情報を分析し、必要な改善策を運行計画や安全教育に反映することが、継続的な安全性向上につながります。

 

2-2. 長期的な安全を実現するための定期・臨時業務

 

日常的な業務のほか、定期・臨時の管理業務を通じて長期的な安全体制を維持することも、運行管理者の重要な業務です。具体的には、以下のような業務が挙げられます。

 

  • 乗務記録の管理・分析
  • 乗務員教育・研修の実施
  • 事故・トラブル対応
  • 運行記録計の管理
  • 異常気象時の特別対応 など

 

それぞれの業務内容を解説します。

 

2-2-1. 乗務記録の管理

 

乗務記録は、過労運転や過積載を防ぎ、安全運行とその管理体制を客観的に証明するために不可欠です。

記録事項には、以下のような項目があります。

 

  • 運転者の氏名
  • 乗務時間
  • 休憩時間
  • 走行距離
  • 経路
  • 積載量
  • 異常の有無 など

 

乗務記録は、1年間の保存義務があります。

運行実績を正しく残し、法令遵守の証明や事故発生時の原因究明に役立てましょう。

 

2-2-2. 乗務員教育・研修の実施

 

運行管理者は、運転者に対して定期的な教育・指導を実施する義務があります。

安全運転技術や法令遵守の意識を高め、事故防止につなげることが目的です。

 

主な教育内容は、以下のように対象者によって異なります。

対象者 内容
旅客輸送 旅客の安全確保、緊急時対応、接遇マナー など
貨物輸送 貨物の正しい積載方法、荷崩れ防止策 など
特別な対象者 事故惹起運転者、初任運転者、高齢運転者には特別指導と適性診断の受診を促す
そのほか 交通死亡事故多発警報(事故警報)が発令された場合、従業員に対し周知や指導、監督を実施

非常信号用具の取り扱い訓練を実践形式で実施

継続的な教育と研修により、運転者の安全意識と実務スキルを向上させることが重要です。

 

2-2-3. 事故・トラブル対応

 

事故が発生した場合、運行管理者は迅速かつ的確に指示を出し、関係機関との連携を図る必要があります。

一般的な事故対応の流れは、以下のとおりです。

 

  1. 事故発生の報告を受ける
  2. 負傷者の救護、二次災害防止策の指示
  3. 警察・消防への通報確認
  4. 代替輸送手段を手配
  5. 事故状況を詳細に記録

 

事故記録は3年間の保存義務があり、再発防止策の策定にも活用されます。

 

2-2-4. そのほかの業務

 

運行管理者はほかにも、多様な管理業務を担います。

 

  • デジタルタコグラフなどの運行記録計が正常に動作しているか確認
  • 記録データの定期的な回収と分析
  • 台風や豪雨時の運行中止の判断
  • 地震発生時の安全確保手順を周知 など

 

気候変動による異常気象の増加に伴い、運行管理者には迅速かつ的確な判断力が必要です。

 

3. 運行管理者の業務に関する法令・義務

 

運行管理者に関する法的ルールは、以下の法令を確認しましょう。

 

  • 旅客自動車運送事業者:道路運送法、旅客自動車運送事業運輸規則
  • 貨物自動車運送事業者:貨物自動車運送事業法、貨物自動車運送事業輸送安全規則

 

法令・義務には、事業者が守るべき義務と、運行管理者本人が遵守すべき義務の双方が定められています。

 

3-1. 事業者が遵守するべき法令・義務

 

自動車運送事業者は、道路運送法第23条ならびに貨物自動車運送事業法第16条で、「運行管理者の選任」が義務づけられています。

運行管理に関する規則で定められている主な義務は、以下のとおりです。

 

項目 内容
統括運行管理者の選任 複数の運行管理者を配置する事業所は、統括運行管理者を定める必要がある
運行管理者の研修 配置した運行管理者に対し、研修や講習を受けさせる義務がある
運行管理規程の作成 運行管理者が円滑に業務を遂行するために運行管理規程を策定する必要がある

 

出典:国土交通省「貨物自動車運送事業の運行管理に関する基本的考え方」「旅客自動車運送事業の運行管理に関する基本的考え方

 

3-2. 運行管理者が遵守するべき法令・義務

 

運行管理者は、「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」をふまえ、乗務割を適正に作成し、勤務・乗務時間を管理する責任があります。

また、定期的な講習の受講も義務の一つです。

 

さらに、法令や規則で定められた業務として、次のような内容が挙げられます。

 

  • 点呼の実施と記録管理
  • 疲労・疾病・飲酒など安全運転に支障がある運転者の乗務禁止措置
  • 勤務・休憩・拘束時間など労務マネジメントの徹底
  • 事故・トラブル発生時の初動対応と再発防止策の実施

 

これらを適正に実施することで、運行の安全性と法令遵守の両立が可能となります。

 

4. 運行管理者への行政上の措置

 

深刻な事故や悪質な法令違反が確認された場合、当該事業所の運行管理者に対して、特別講習の受講や運行管理者資格者証の返納を命じられるケースがあります。

 

以下のような事故や違反を引き起こした事業所の運行管理者は、特別講習の受講が必要です。

 

  • 死者または重傷者が生じる事故
  • 関連法規のうち、安全確保に関する法規違反による行政処分

 

また、悪質な法令違反や深刻な事故を複数回起こした際は、運行管理者資格者証の返納を命じられることがあります。

運行管理者資格者証を返納すると、運行管理者として業務を行えません。

 

悪質な法令違反には以下のようなものがあります。

 

  • 過労運転や過積載を指示・容認した場合
  • 点呼を一切実施していない など

 

都道府県公安委員会から事情聴取や通知を受ける場合もあり、これらを繰り返すと重大な法令違反とみなされ、運行管理者資格者証の返納命令が下される可能性があります。

 

5. 運行管理者に必要な資格と取得方法

 

運行管理者になるには、特定の試験に合格するか、所定の講習を受講して「運行管理者資格者」(国家資格)を取得する必要があります。

 

5-1. 運行管理者試験の受験資格

 

運行管理者試験を受験するには、以下の条件のうちいずれかを満たす必要があります。

 

  • 事業用自動車の運行の管理に関する実務経験が1年以上
  • 運行管理者講習の基礎講習を受講済み

 

運行管理者講習の基礎講習は、法令や業務に関する基礎知識の習得が目的で、実務経験がない方でも受講可能です。

 

5-2. 試験の概要

 

運行管理者試験は、旅客と貨物の2種類があり、それぞれ専門的な知識が問われます。

試験に出題される内容は、以下のとおりです。

 

  • 道路運送法または貨物自動車運送事業法
  • 労働基準法
  • そのほか関連法令
  • 運行管理者の業務に必要な実務上の知識および能力

 

試験形式はマークシートで90分、出題数は30問です。

合格するには、総得点の60%以上かつ各出題分野における一定の正答数が必要であり、合格率は貨物、旅客ともに約35%となります。

 

5-3. 運行管理者資格を取得するための条件

 

運行管理者資格は、前述の試験を受験する以外に、一定の実務経験を備え講習を受講した場合でも取得できます。

 

求められる実務経験と要件は、以下のとおりです。

 

  • 運行の管理に関する実務経験5年以上
  • 所定講習を5回以上受講(うち1回は基礎講習)

 

※講習は自動車事故対策機構が行う基礎講習および一般講習

 

長年運送業界に従事してきた方は、資格取得のための受験は必要ありません。

 

5-4. 資格取得後の流れ

 

資格を取得したあとは、次の届出を行う必要があります。

 

  • 旅客事業者:取得から15日以内に届出
  • 貨物事業者:取得から1週間以内に届出

 

また、運行管理者として業務をスタートしたあとは、定期的に運輸監理部長または運輸支局長が指定する研修や国土交通大臣が認定する講習の受講が必須です。

 

継続的な学習を通じて、最新の法令や安全管理の手法を習得し、運行管理体制の改善に努める必要があります。

 

6. 運行管理者の業務に関するよくある質問

 

運行管理者の業務についてよくある質問と回答を整理しました。

 

6-1. 運行管理者は運転してもよい?

 

必要な条件を満たせば、運行管理者も運転業務に従事できます。

ただし、運転が運行管理業務に支障を及ぼさないことが前提です。

 

運行管理者が運転できるのは、以下のような要件が満たされた場合に限られます。

 

  • 車両数に必要な人数以上の運行管理者が在籍している
  • ほかの運行管理者が点呼や運行計画を監督できる
  • 運行管理者本人が運転中でも管理業務が円滑に行える

 

実際には、運行管理者が頻繁に運転することは推奨されません。

可能な限り運行管理を最優先とし、必要に応じて運転業務の配分を検討しましょう。

 

6-2. 運行管理者は複数の事業所で兼務できる?

 

運行管理者は、基本的に専属での配置が求められるため、複数の事業所での兼務は認められません。

複数の事業所を兼務すると、いずれかの事業所で運行管理が不十分になる恐れがあります。

 

複数事業所をもつ事業者は、必ず規定に沿った必要人数を満たす運行管理者を各事業所に配置しましょう。

 

6-3. 運行管理者が不在の場合はどうなる?

 

運行管理者が長期間にわたり業務を行えない場合に備えて、資格を持つ代行担当者をあらかじめ選任しておくことが重要です。

 

また、運行管理者の一時的な不在の場合には、「運行管理補助者」がサポートすることも認められています。

補助者は、国土交通大臣が認定する講習を修了した人の中から選任する必要があります。

 

不測の事態でも運行管理業務を継続できるよう、体制を整えておきましょう。

 

6-4. 運行管理者と運行管理補助者の違いは?

 

運行管理者が、最終的な責任と判断の権限をもつのに対し、補助者は運行管理者の指示の下でサポート的な業務のみ行う点が両者の違いです。

運行管理者が自ら行う業務には、運行指示書および運行表の計画立案、特殊な事例や注視すべき問題がある場合の指導などがあります。

 

補助者の業務は、通常の点呼、日常的な記録の作成・整理、運行管理者の指示に基づく連絡などです。

補助者が業務を代行した場合でも、最終責任は運行管理者にあります。

 

7. まとめ

運行管理者は、事業用車両の安全な運行を支える重要な職種です。

その業務は多岐にわたり、日々の点呼から長期的な教育まで、広範な知識と技能が求められます。

運行管理者を目指す方や、すでに運行管理者として業務を遂行している方は、本記事を参考により知識を深め、安心・安全な運行管理の実現を目指しましょう。