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車両管理責任者の役割、立ち位置とは?安全運転管理者との違い

車両管理責任者の役割、立ち位置とは?安全運転管理者との違い

社有車がある企業では、車両管理責任者を配置して、社有車管理を一任する企業が増えています。

車両管理責任者の仕事は、車両の点検から安全運転の呼びかけや講習、かかる費用など管理すべき事項が多岐にわたります。

 

ただし、業務範囲が安全運転管理者と重なる面もあるため、両者が混同されてしまいがちです。

そこで本記事では、車両管理責任者と安全運転管理者の区別だけではなく、両者の関係性と双方を配置するメリットまで詳しく解説します。

車両管理責任者の役割を正しく理解し、安全体制を強固にしていきましょう。

 

1. 車両管理責任者とは?

 

車両管理責任者とは、会社が保有する車両の管理を担う役職です。

車両を安全に使用するために車検や整備のスケジュール計画やコスト管理、台帳管理など、社有車を適切に運用・管理するための業務を幅広く担当します。

 

中には運転手の管理業務を担う場合もあり、安全運転管理者と兼任していたり、役割が混同されていたりすることも珍しくありません。

しかし、本来、両者の役割には違いがあります。

 

業務範囲や管理責任が曖昧になる可能性を防ぐためにも、両者の違いを正しく把握し、自社の車両管理体制を整える必要があります。

 

1-1. 車両管理責任者の定義と選任義務

 

車両管理責任者は社有車の管理、運用だけでなく、運転する従業員の管理まで担当する責任者です。

しかし、法律などでの選任が義務付けられているわけではなく、担当する業務範囲が企業によって異なります。

 

そのため、車両にかかるコストや運転手の管理、整備や点検スケジュール、鍵の管理など、幅広い業務が車両管理責任者に集約されるケースが多く見られます。

 

1-2. 具体的な業務内容

 

車両管理責任者の担当業務の領域は、企業ごとに差があり、安全運転管理者と兼務するケースもあります。

そのうえで、車両管理責任者が主に担当する業務は以下の5つです。

 

  • 台帳による社有車の管理
  • 車両の点検・整備
  • 車両にかかるコストの管理と見直し
  • 車両の使用許可
  • 運転手の管理

 

上記の業務は、いずれも社有車を安全かつ適切に運用するために欠かせない業務です。

 

1-2-1. 車両管理台帳による社有車の管理

 

車両管理責任者の業務の一つとして代表的なものが、車両管理台帳を用いた社有車の管理です。

台帳には、主に社有車の使用状況や保険加入の有無、点検履歴、運転日報などの情報を記録します。

 

企業ごとの車両管理規定に基づいて作成するため、台帳の内容に多少の差は出ますが、台帳を見れば社有車に関する状況が把握できるよう記録することが重要です。

台帳をもとに法定点検や整備のスケジュールの管理も行います。

社有車を安全かつ効率的に運用するためにも、車両管理台帳の記入は欠かせない業務といえます。

 

1-2-2. 車両の点検・整備

 

車両管理台帳の情報をもとに、車両の整備や点検のスケジュール調整をするのも、車両管理責任者の重要な業務です。

安全に車両を使用するためだけではなく、企業として法令を守って社有車を運用するためにも欠かせません。

車検と法定点検は、道路運送車両法により実施項目や実施間隔が法律で決まっています。

 

たとえば、車検に関する管理も重要な業務の1つです。

車検切れの車で公道を走行すると道路交通法の点数制度で、免許停止処分の対象となりかねません。

 

さらに、車両事故につながると、企業が社会的信用を失うリスクや、管理体制そのものを問われる可能性もあります。

運転手が安心して安全運転に専念するためにも、車両の点検・整備の管理は確実に行う必要があります。

 

1-2-3. 車両コストの管理

 

車両管理責任者の業務には、車両にかかるコスト管理も含まれます。

 

たとえば、車両の保険料や車検費用、ガソリン代といった表面的に見える費用の管理も重要です。

さらに、車両管理台帳の情報をもとに、非効率な走行経路や稼働が少ない車両など、表面では見えづらいコストにも目を向けます。

 

コスト面で課題が見つかったら、整備業者の見直しや、エコドライブ指導の実施などのコスト改善を検討します。

使用頻度が低い車両がある場合は、台数の見直しやリースへの切替の検討をする場合もあるでしょう。

 

むやみにコスト削減だけをするのではなく、企業の実情に合わせた最適な車両運用ができる体制構築も重要です。

 

1-2-4. 車両の使用許可を出す

 

運転手が社有車をプライベート利用しないよう、車両利用を許可制にして運用管理する企業もあります。

 

もし、業務以外で社有車を運転して事故を起こした場合、運転手だけではなく、企業も管理責任が問われる可能性があります。

さらに、無断で車両をプライベート利用した場合、状況によっては業務上横領として扱われるケースも少なくありません。

 

企業の経済的損失や賠償、信用失墜といったリスクを防ぐためにも、事前チェックと使用許可を組み合わせた管理は効果的です。

 

1-2-5. 運転手の管理

 

車両を安全に管理するためには、車両を運転する運転手の管理も不可欠です。

健康状態や酒気帯びのチェックは毎日の点呼で確認し、日報や走行データから長時間運転や危険運転の有無を把握します。上記の情報の積み重ねから、必要に応じて安

全運転指導や指導後の改善確認も定期的に行います。

 

運転手の管理は、安全運転管理者の業務範囲でもあります。

そのため、両方の役職を設置している企業では、車両管理責任者が運転手管理の業務の遂行状況をチェックする体制となりがちです。

運転手を適切に管理し、安心して安全運転が継続できる環境を整えることで、事故防止と安全体制の構築につながります。

 

1-3. 車両管理責任者の必要性

 

車両管理責任者は、車両の管理を通じて企業の社会的責任を果たしているという見方もできます。

CSRとは企業が自社の利益の追求だけではなく、責任ある行動や説明責任を社会全体に対して果たしていく考え方です。

 

台帳管理から点検・整備、車両の使用許可といった業務は、事故・違反を防ぐための土台づくりになります。

さらに、適切なコスト管理の実施は、無駄な車両維持費などの費用を抑えながら収益の向上にもつながるでしょう。

 

車両管理責任者は法的に選任義務がない役職ではありますが、安全運転管理者では賄いきれない業務を補完する存在でもあります。

兼任ではなく、両方の役職を配置することで、より強固な車両管理体制を築けるでしょう。

 

2. 安全運転管理者とは

 

安全運転管理者は、社有車を利用する運転手の安全運転を推進し、未然に事故を防ぐために選任されます。

車両管理責任者の業務と合わせて兼務する事例もあるため、車両管理責任者と混同されやすい役職です。

 

ただし、安全運転管理者は、道路交通法で選任基準や業務内容が明確に定められている法定職で、任意配置の車両管理責任者とは明確に異なります。

法令で定められた業務を確実に遂行する必要があるため、役割を正しく理解し、業務を確実に実施できる環境づくりが重要です。

 

2-1. 安全運転管理者の定義と選任義務

 

安全運転管理者は安全運転指導のほかにも、運転手の健康状態の把握や運行計画など、運転手が安全に運転できるよう支援する役割を担います。

設置基準も道路交通法で定められており、「乗車定員が11人以上の自動車1台以上」または「その他の自動車を5台以上」を事業所で使用する場合に、安全運転管理者の選任が必要です。

二輪車は1台を0.5台として計算し、車両が20台以上の場合は、20台増すごとに1人の副安全運転管理者の選任も義務付けられています。

 

選定要件も定められており、安全運転管理者は20歳以上で、自動車の運転管理に関して2年以上の実務経験が必要です。

副安全運転管理者の選任が必要な事業所では、安全運転管理者は30歳以上であることが条件となります。

一方、副安全運転管理者は20歳以上かつ自動車の運転管理に関して1年以上の実務経験が必要です。

 

2-2. 具体的な業務内容

 

安全運転管理者の業務内容は、道路交通法施行規則で定められています。

運転手が安全運転に専念できるよう、記録管理から健康状態の確認、運行計画の作成、指導・教育と広範囲におよびます。

運転手の状況把握のために運転日誌の記録や、健康状態や酒気帯びの確認も必要です。

 

さらに、長距離や夜間運転時の交代要員の配置や、異常気象時などの安全確保の指示など、運行計画面の管理も担当します。

必要に応じて定期的に運転手に安全運転の指導をするなど、改善状況の確認やフォローも行います。

安全運転管理者は事故の発生を防ぐための、現場の安全支援役ともいえるでしょう。

 

2-3. 選任しないとどうなる?届出義務について

 

一定数の社有車を使用しているにもかかわらず、安全運転管理者を選任していない場合、道路交通法で50万円以下の罰則の対象になります。

また、選任するだけではなく、各事業所の管轄警察署を通して、公安委員会への届出が必要です。

安全運転管理者の選任後15日以内に届け出ることが義務付けられており、届出を怠った場合は、5万円以下の罰則が課せられます。

 

なお、選任基準は企業単位ではなく、事業所単位で判断します。

事業所が複数ある場合は、事業所ごとに使用車両の台数を確認したうえで、安全運転管理者を適切に配置しましょう。

 

3. 車両管理責任者と安全運転管理者、似ているようで違う2つの役職の整理

 

車両管理責任者と安全運転管理者は、業務領域が重なっている部分を持ちますが、役割と法的義務の有無が異なる立場です。

車両管理責任者は、法的な選任義務がなく、企業側の裁量で設けられるポジションで、車両全般の管理やコストの最適化、運転手の管理など運用面を幅広く統括します。

一方で、安全運転管理者は道路交通法に基づいて選任が義務付けられており、運転手が安全運転を実施するための管理や指導に役割が特化しています。

比較項目 車両管理責任者 安全運転管理者
配置義務 任意配置 道路交通法で義務付け
選任基準 企業ごとで判断 事業所ごとの使用車両台数による
役割 社有車の維持管理
企業側のリスク低減
コスト最適化
運転手の安全運転推進
事故防止
業務内容 車両の台帳
点検
コスト検討
車両使用許可など
運転手の管理、教育
運行計画
兼任 他業務と兼任されることもある 兼任可能だが、安全運転管理者の業務遂行が前提

 

上記の表で比較すると、車両管理責任者は社有車を安全かつ適切に運用するための管理、安全運転管理者は運転現場の管理に立場が寄っているとわかるでしょう。

 

4. 車両管理責任者と安全運転管理者の業務上の関係性とは?

 

社有車の稼働状況と管理体制を包括的に把握、調整していくのが車両管理責任者であり、その業務内に運転手の管理や安全運転に関わる業務が含まれるケースも少なくありません。

そのため、業務範囲が曖昧になりがちなポジションです。

 

一方で、道路交通法によって業務内容が明確に定められている法定職が安全運転管理者です。

法令に沿って業務を確実に遂行する必要があることから、安全運転管理者の業務が機能しているか、車両管理責任者が確認する体制になるケースがあります。

車両管理責任者は「車両管理の調整」、安全運転管理者は「運転現場の安全実行」と、異なる役割により安全体制をよりよくする補完関係といえるでしょう。

 

4-1. 役職上は目的が異なる補完関係

 

業務内容の領域が近く、混同されやすい車両管理責任者と安全運転管理者ですが、役職としての目的は異なります。

 

車両管理責任者は、社有車の維持管理以外にも、企業の運用体制に関わる管理業務も受け持ちます。

一方、安全運転管理者は運転手が安全運転を実施できる状態を保つことが目的です。

 

そのため、業務内容は点呼による健康状態や酒気帯びの確認、運転日誌の記録指導や運行管理など、運転手の業務と密接な関係があります。

両者は役割の焦点が異なるため、的確な分業とコミュニケーションが円滑な運行につながります。

 

4-2. 両者が選定されることでより強固な安全体制に

 

車両管理責任者と安全運転管理者の両者は、どちらか一方だけの選定では安全体制が十分に機能しないケースも考えられます。

そのため、強固な安全体制を整えるためには、両者の選定が有効です。

 

車両管理責任者は、車両管理台帳の記録・更新や点検内容の把握や調整、車両の使用許可など、社有車の使用環境を整えることで、安全体制の土台を築きます。

両者の役割が分かれて存在することで、業務範囲や責任の所在が明確になります。

加えて、両者が連携することで、事故防止や違反の予防、社有車の適切な運用といった社内全体の安全体制を多方向から強化しやすくなるでしょう。

 

4-3. 兼任する場合の注意点

 

車両管理責任者と安全運転管理者は分けて選任することが望ましいですが、事業所の規模や人員の都合により、1人が両方の役職を兼任せざるを得ないケースもあります。

 

安全運転管理者は道路交通法で業務内容が定められ、確実な実施が求められています。

そのため、兼任する場合には、安全運転管理者の業務遂行に支障が出ない体制を構築しなければなりません。

 

兼任により負担が大きくなる場合は、車両管理責任者の業務をほかの担当者へ割り当てたり共有したりして、業務量を調整しながら進めましょう。

 

5. まとめ

 

車両管理責任者は、企業による任意配置の役職で、社有車そのものを安全に運用できる体制を整えます。

業務範囲は車両台帳管理から、点検・整備、コスト管理、車両の使用許可まで多岐にわたります。

 

一方、安全運転管理者は道路交通法で義務付けられた業務内容をもとに、運転手が安全運転を実施できる環境づくりを担う役職です。

 

両者が揃うことで、車両と運転手の両面から安全体制の強化が可能です。

社有車の管理体制を整える際は、双方の役割を混同させず、それぞれの業務を機能させましょう。