役員運転手の労務管理とは?労働時間・待機時間・断続的労働について解説
2025年10月24日

役員運転手は、単なる送迎だけを担う存在ではなく、企業の安全や信頼を支える重要な役割を果たします。
そのため、一般ドライバーとは異なる労務管理が求められます。
労働時間と拘束時間の区分、待機時間の扱い、断続的労働の適用除外制度を正しく理解しなければ、未払い残業や是正勧告といった法的リスクを招く恐れがあるのです。
本記事では、役員運転手の労務管理における要点と実践的な対策を解説します。
目次
1. 役員運転手の業務と労務管理
役員運転手は、単なる送迎だけでなく、車両管理、運行計画、役員の予定に合わせた柔軟な対応など、多岐にわたる業務を担います。
役員と行動をともにするため、機密情報に触れる場面も多く、高い信頼性とマナーが求められます。
また、朝の早い時間帯や夜中の送迎も起こり得るかもしれません。
労務管理では、運転中だけでなく、待機や車両整備・清掃などの時間も「労働時間」に含まれる点が重要です。
指示に即応できる状態である以上、休憩とは区別しなければなりません。
この区分を誤ると、残業代未払いなどの労務トラブルにつながり、企業の信頼やコンプライアンス体制にも影響します。
正確な勤務時間の把握と、36協定や断続的労働の適用可否を踏まえた管理体制の構築が欠かせません。
2. 役員運転手の労働時間と待機時間の考え方
役員運転手の勤務管理では、「拘束時間」「実働時間」「待機時間」を正しく区別する必要があります。
運転業務の性質上、送迎以外の時間も多く、労働時間の取り違いが起こりやすい職種といえるでしょう。
法令上の定義と実際の運行実態を踏まえ、どこまでを勤務として扱うかを明確にしなければ、残業代未払いなどのリスクを招く恐れがあります。
ここでは、役員運転手における時間管理の基本的な考え方を整理します。
2-1. 労働時間と拘束時間の定義
労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下で業務に従事している時間を指します。
拘束時間は、出勤から退勤までの総時間であり、実際に運転していない待機や準備の時間も含まれるものです。
役員運転手の場合、運転中はもちろん、待機中であっても「いつでも運転再開の指示に応じられる状態」であれば労働時間とみなされます。
正しい区分をもとに勤務記録をつけ、36協定の締結、断続的労働の適用可否の検討が重要です。
2-2. 待機時間の取り扱いには注意が必要
役員運転手の待機時間は、単なる「休憩」ではなく、労働時間として扱われるケースが多い点に注意しましょう。
役員からの連絡を待ちながら車両を清掃・整備したり、次の送迎ルートを確認したりと、実際には業務準備を行っているためです。
特に、いつ呼び出されても対応が求められる状態は「使用者の指揮命令下」にあると判断されます。
誤って休憩時間として処理した場合、残業手当の未払いが発生する可能性も否めません。
こうしたトラブルを防ぐには、運行スケジュールや待機時間の実態を把握し、勤務記録を詳細に残すことが重要です。
定期的な労務監査や外部委託による運行管理体制の導入も、有効な対策となります。
3. 役員運転手の労務管理と断続的労働の適用除外制度
役員運転手は待機時間が長く、勤務時間の区分が複雑になりやすい職種です。
そのため、通常の労働時間管理では限界のある場合があります。
こうした実態を踏まえ、労働基準法では「断続的労働の適用除外制度」という特例が設けられています。
この制度を適切に理解した運用が、過重労働防止とコスト管理の両立に欠かせません。
以下では、制度の概要と申請条件を整理します。
3-1. 断続的労働と適用除外制度
「断続的労働」とは、業務の合間に長時間の待機や休憩が発生する職種に対して認められる勤務形態を指します。
役員運転手のように、送迎の合間に待機時間が多く、連続した労働ではない業務が典型例です。
この制度では、所轄労働基準監督署長の許可を受けることで、労働時間や休憩・休日に関する一部の規定が適用除外となります。
つまり、1日8時間・週40時間の上限を超えても直ちに違法とはならず、業務実態に即した柔軟な勤務管理が可能です。
ただし、運転手の安全確保や健康配慮を怠ると、適用除外の趣旨に反するため注意しましょう。
3-2. 断続的労働の適用除外制度を申請するための条件
断続的労働の適用除外を受けるには、単に待機時間があるだけでなく、業務が明確に「断続的」であると認められることが条件です。
申請には、勤務の実態を示す運転日報やスケジュール記録を添付し、労働中に長い中断・待機時間が存在することを立証する必要があります。
また、申請書には就業規則や労使協定の整備も求められ、形式的な届出だけでは認定されません。
認定後も実態調査や更新審査が行われる場合があり、制度を悪用した形での長時間労働隠しは厳しく指導対象となります。
企業は、この制度を「残業削減の抜け道」ではなく、実態に即した労務管理の選択肢として適切に活用することが必要です。
4. 役員運転手の労務管理でかかせない時間外労働管理と36協定の必要性
役員運転手は早朝や夜間の送迎が多く、拘束時間が長くなりやすい職種です。
そのため、時間外労働の扱いを正確に管理する必要があります。
労働基準法第36条では、1日8時間・週40時間を超えて働かせる場合、36協定を締結し、労働基準監督署に届け出なければなりません。
これがない状態で残業を命じると労働基準法違反となります。
役員は労働者ではありませんが、役員運転手は雇用契約に基づく労働者です。
労働者は、労働時間・残業・休日すべてが法の管理下にあります。
企業は実働と待機を明確に区分し、36協定の範囲内で適正に運行・勤怠を管理する体制を整えることが求められます。
5. 役員運転手の労務管理での注意点
役員運転手は早朝送迎や深夜対応など勤務が不規則になりやすく、労務管理上の注意点が多い特徴があります。
そのためにも、休日労働と深夜労働の区分を明確にすることが必要です。
法定休日の運行は代休付与または割増賃金の支払いが必要となります。
ただし、事前に「振替休日」を定めていた場合は扱いが異なります。
22時から翌5時の業務は、断続的労働の適用除外でも深夜割増の対象です。
また「待機=休憩」との混同をしないよう注意が必要になります。
区分を誤ると残業代未払いのリスクが高まるでしょう。
長時間拘束の健康リスクにも配慮し、勤務間インターバルを確保しましょう。
実態に即した就業規則と勤怠記録を整え、柔軟な運用と法令遵守を両立させることが肝心です。
6. 役員運転手を外部委託や派遣で使用する場合の労務管理
役員運転手を自社雇用せず、派遣や業務請負・業務委託で外部に委ねる場合、管理責任の所在を明確にすることが重要です。
派遣契約では、雇用主は派遣会社であり、労働時間や待遇の管理は派遣元が行います。
ただし、指揮命令権は派遣先企業にあるため、業務範囲を超えた指示は「偽装請負」と判断されるおそれがあります。
一方、業務請負や委託では、運転手が独立事業者として業務を遂行するため、発注側による直接勤怠の管理はできません。
契約書には業務内容・責任範囲を明確に定め、労働者性を帯びない契約運用の徹底が、法令遵守とトラブル防止の鍵となります。
7. まとめ
役員運転手の労務管理は、待機や深夜対応など不規則な勤務を前提とした運用が求められます。
労働時間と待機時間の明確な区分、36協定の締結、断続的労働の適用可否など、法令に基づく適正管理が欠かせません。
また、休日・深夜労働や健康面への配慮も重要です。
さらに、派遣や業務委託を活用する場合は、契約内容と指揮命令範囲を明確にし、偽装請負を防ぐ必要があります。
制度理解と現場実態の両立こそが、企業の信頼と法令遵守を支える基盤となるのです。
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